危険な兆候4+1

天気図を読めるようになるには、最初から手を広げずに、自分が理解できるパターンを天気図の中からみつけていくという練習を地道に積み重ねていくのが効果的です。

過去の気象遭難の事例から「このようなときは山に入るのは危険だ」というパターンを抽出し、さらにその中から見つけやすいものに絞って「危険な兆候3+1」としてまとめました。

危険な兆候① 風の強い低気圧

図1 危険な兆候①

低気圧を中心にして、同心円状に等圧線が狭い間隔で並んでいると広い範囲で強い風が吹き、危険な状況になります。

図1の赤く塗った部分では、東海地方から北海道までを覆うような広い範囲で強い風が吹いていると思われます。地上では建物や地形で風が遮られることもありますが、山の稜線上では風が直接吹きさらします。秒速15メートル以上の風では歩くのが困難になります。また、雨で体が濡れてしまうと強い風で体温を奪われ、低体温症になるリスクが高まります。

さらに恐ろしいのは、このような状況では遭難しても救助隊がすぐには出動できないことです。風が強ければヘリは飛べないですし、地上からの捜索も見合わせになる可能性大です。図1のように風の強い範囲が広いと、天候が回復するには時間がかかります。

このような低気圧は冬から春にかけて多く発生します。また夏から秋にかけては、台風が温帯低気圧に変わった後にも見られます。

このような低気圧の通過が予想されるときは登山を見合わせるべきです。

 

【台風と低気圧とどちらが怖い?】

秒速17.2メートル以上の風が吹く熱帯低気圧を台風と呼んでいます。台風も風が強く、大きな被害を出す現象です。台風は日本を通過するまでは逐次報道で取り上げられ、危険ムードが高まります。

それに比べて、温帯低気圧(通称、単に「低気圧」と呼ばれます)は日常的な事象のせいか、あまり緊迫感がありません。報道を受け取る側にも台風と比べると緊迫感が緩くなりがちです。

台風に比べると、低気圧はその影響範囲がはるかに大きいのが特徴です。台風のように通過すれば天気が晴れてくるということもありません。その意味で、「風の強い低気圧」は意識しておかなければいけないリスクです。

なお、熱帯低気圧は熱帯で発生するもので、南北の温度差を成因とする温帯低気圧とは構造が異なります。

 

危険な兆候② 寒冷前線

図2 危険な兆候②

地上天気図には等圧線が描かれています。その形状を読み解くことで、日本付近の風の流れを把握することができます。これにより晴れや雨といった、およその天気を知ることもできます。

風に加えて、天気に大きな影響を与える要素がもう一つあります。それは気温差です。気温差は等圧線で表現することができないので、前線という記号で記入されます。

一般的に日本から見て高緯度側は気温が低く、低緯度側の気温は高くなっています。この気温差がグラデーションのように緩やかに生じていれば問題になりませんが、寒気がまとまって南下して南北の気温差が崖のように急になることがあります。このような領域では激しい気象現象が発生することがあります。前線はこのような領域を表現しています。

図2の赤く塗った部分は、前線を表す線に尖った三角が付いており「寒冷前線」と呼ばれます。この領域では積乱雲が発生して激しい雨や雹(ひょう)が降ったり、雷が落ちたりします。また河川では急な増水の恐れも出てきます。

寒冷前線が近づいてくる山では、前線が通過するまで安全なところで待機するのが安全です。

 

危険な兆候③ 冬型の気圧配置

日本周辺では冬の時期(11月下旬〜3月ぐらい)に、冬型の気圧配置あるいは西高東低と呼ばれる特徴的な気圧配置がたびたび出現します。

シベリア方面では放射冷却により高気圧が発達します。このようなとき、北太平洋で低気圧が発達すると、大陸からの季節風が流れ込み、日本海側に雪をもたらします。

冷たい季節風は日本海をわたるときに水蒸気をたっぷりと蓄え、これが日本海側の山脈で上昇して凝結することで雪になります。冬は夏に比べて対流圏の高度が低いため、積乱雲の高度は低くなります。このような状況で「冬の稲妻」と呼ばれる雷が多発します。

冬型の気圧配置が出現すると、地上天気図の等圧線が縦縞のように南北にのびるので一目瞭然です。また、衛星画像では積乱雲が筋状に並んでいるのが見られます。

シベリア大陸で1,050hPaを超えるような発達した高気圧があるときは、冬型の気圧配置はしばらく持続します。日本海側の山に入るにあたっては停滞を想定し、雪洞を掘るための機材や十分な食糧の準備が欠かせません。

 

危険な兆候④ 大気不安定

気象解説で「大気の状態が不安定です」という言葉を耳にしたことがあると思います。

これはちょっとしたきっかけで、鉛直方向(地表から上空に向いた方向)で大気がかきまわされる可能性が高いということです。その結果、局地的に強い雨が降ったり雷が落ちたり、雹が降ったりします。ときには竜巻のような激しい突風が吹くこともあります。

大気不安定が怖いのは、現象としては激しいのにその直前までは快晴なことが多く油断しがちなこと。また具体的にどこで発生するかは特定できないことが挙げられます。

ここでは地上天気図から読み取ることのできる「湿った大気不安定」について説明します。「乾いた大気不安定」もあるのですが、これは地上天気図からは読み取ることができないので、改めて説明したいと思います。

 

(つづく)